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「ありがとう、舞さん。私も、舞さんの中に存在していいのね。」 反対側の千聖の手と私の手が、今度は私の胸の上で重なった。 右手に千聖の鼓動。 左手に自分の鼓動を感じながら、私はとても静かで穏やかな気持ちになった。 「皆さんのところに戻る?」 「・・・・もうちょっとだけ、ここにいたい。2人でいたい。」 「ええ。」 私たちは手をつないで、自然に寄り添った。 何も喋らないで、ただゆっくりと時間がすぎていく。 千聖の頭が、私の肩に乗っかる。 私の頭が、千聖の頭に乗っかる。 千聖のシャンプーの香りが鼻をくすぐる。 「・・・・・雨が、降ってきたみたいね。」 ふいに千聖が呟いた。 「そうだね。」 よっぽど強い雨なのか、静かなこの部屋にいると、バラバラと水が建物を打ち付ける音が聞こえてくる。 「じゃあさ、この雨が止んだら戻ろう。みんなのところへ。」 「まあ。ずっと朝まで止まなかったら?」 「・・・朝まで戻らない。」 「もう、そんなこと言って。」 それきりまた会話もなく、私の耳はただ降りしきる雨の音だけを拾っていた。 「・・・千聖?」 千聖はゆっくり頭を起こすと、目の前にあった衣装から、細い黄色のリボンを抜いた。 「どうするの、それ。」 「ふふ」 器用な手つきで千聖は2人の小指を結んだ。 「前に、梨沙子さんに教えてもらったの。赤い糸は永遠に恋人たちを結ぶ糸で、青は恒久の友情。黄色はゆるぎない信頼の糸なんですって。・・・私たちは、黄色い糸じゃないかしら。」 「千聖・・・・うん、そうだね。黄色だ。」 私が勝手に断ち切った2人の絆の糸を、千聖はずっと握り締めたままでいてくれたんだ。 そして、それを結びなおしてくれた。しかも、千聖の方から。 「・・・・ごめんね。」 「え?」 「なんでもない。」 素直になれない私は、千聖に何も反してあげられない。 どうか、雨が止みませんように。 まだ、2人きりでいられますように。 ただそう強く願うだけだった。 「・・・・通り雨だったみたい。もう止んでしまったわ。」 私の願いもむなしく、雨はあっというまに上がってしまった。 まだここを離れたくなかったけれど、ワガママで千聖を縛り付けるのはもう嫌だった。 「帰ろう、みんなのところへ。」 「ええ。」 私たちは小指を繋いだまま、暗い部屋をあとにした。 歩みを進めるたびに、みんなの声が大きくなる。 啖呵を切って出て行ったから、顔を見せるのがちょっとだけ恥ずかしい。 でも、今の私はもう一人じゃない。この手のぬくもりがあれば、頑張れる。 「入ろう、千聖。」 「ええ。」 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「・・・あれは、つわりなのか。そうなのか」 テーブルの上に残されたご飯をじーっと見ながら、舞ちゃんはつぶやく。 「なんか、食べ物のにおいがダメになるっていうよね。お米とか、お味噌汁とか、お魚とか」 今日のメニュー・・・白いご飯、大根のお味噌汁、鯵の干物。 「ケッケッケ・・・フルコースだね」 「いや、いや、いや。でも、待ってね。落ち着いて、よーく考えてね。愛理も舞ちゃんも」 3人だけの℃-ute会議。 私物の赤フレームのめがねをキラリと光らせながら、なっきぃは動物園のシロクマさんのごとく、ホワイトボードの前を行ったり来たりしている。何往復目だ。落ち着いてといいながらも、一番挙動不審になっている。 「だってね、そもそも、みぃたんは女の子でしょ?まあね、ほら、早貴の友だちがインターネッツで見たらしいけど、そ、そそそそのごくたまぁに、男の子のそういったアレがついている女の子がいるって、早貴の友だちが言ってたけど」 「ふーん、友だちがねぇ・・・」 頬杖をついた舞ちゃんが、片眉を上げてハッと笑う。私も無意識にニヤニヤしていたらしく、なっきぃは顔を真っ赤にして声を荒げた。 「や、そ、そんなことより!大体、2人とも、みぃたんのそのア、アソコが今までそそそんなアレがソレだったことなんてないでしょ!?」 「でもさ、誰かとお風呂入った時さ、わざわざあんま・・・見なくない?そんなところ。胸はさ、目に入っちゃうから見ないこともないけど」 「え、舞は見るよ。相手にもよるけど。舞美ちゃんのは見ないかな」 「へ、へー・・・」 私の体が、若干2人から遠ざかったのは言うまでもない。 61 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 13 07.98 0 「・・・確かに舞美ちゃんって男っぽいよね。マッチョだし、運動できるし、髪切って男前度が増したし。 大体、舞がお風呂入ってたらめっちゃ撮影するくせに、一緒に入りたがらないっていうのもおかしな話だよね。何か理由でもあるの?って感じ」 ――そういわれてみると、舞美ちゃんの独特のモサフリファッション・・・あれは、擬態なんじゃないかと思えてくる。過剰なまでに女性らしさを演出するための、そう、本当はあのカモシカのようなおみ足の間にソレがアレしていることを隠すための・・・ 「ででで、でも、でもだよ。仮に舞美ちゃんがふたなりだとしても!」 「あ、言ったねなっちゃん」 「ギュフ!・・・もう、いいのそんなことは!だからね、万が一そうだったとしても、どどどどうして千聖とそんな関係になるわけ!?千聖は、あの、その、えりこちゃんのことが・・・」 舞ちゃんのことを考慮してか、はたまたデリケートな話題だからか、なっきぃの声がしぼむ。 私もチラッと舞ちゃんの方を見てみるけれど、意外なほど涼しい顔をしている。 「なっちゃん、甘いな。前のちしゃとならともかく、お嬢様。あいつは、やりましゅよ。なかなかのヤリ」 「わーっ!」 なっきぃと私、両側からあわてて止めに入ると、舞ちゃんはニヤッと笑った。 「愛理だって、何にも知らないわけじゃないくせに」 「さ・・・さぁ~?何の事だか私にはぁ~?あははぁ~」 カッパ踊りでごまかすも、なっきぃの視線が痛い。 「つ、つまり、私以外の全員でちちちさとをを弄んでいたのか!ああ、かわいそうな千聖!あの熟れ始めた水蜜桃の如くたおやかしなやかな肉体を、悪魔たちの毒牙に・・・」 ――うん、なっきぃはエロ小説の読みすぎだね。 62 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 14 07.12 0 蒸気機関車のように湯気を出しまくってるなっきぃを尻目に、舞ちゃんは「舞美ちゃんてさ」と続ける。 「舞美ちゃんてさ、千聖に甘いよね。どっちの千聖にも」 「あー、まあね」 いや、舞ちゃんに対してだって大概・・・と思ったけれど、言いたいことはなんとなくわかる。 「お財布あげたりバッグあげたり、イヤフォンもだっけ。それだけじゃなくて、何か、甘いの。 普段ちしゃとは長女で、舞美ちゃんは妹だから、2人でいると逆転できて心地いいんだろうけどね」 「まあ、それはわかる」 「あと、どーせみんな知ってるだろうから言うけど、今までお嬢様の千聖は、寂しかったり自分の人格のことがわからなくて怖くてたまらないときに、えりかちゃんに触ってもらってたんだよね。つまり、エッチなことしてたってこと」 「やっぱり・・・」 なっきぃがガクッとうなだれる。 ま、そりゃそうだ。なっきぃとしては妹みたく可愛がってる千聖が、自分を頼らずに、“そういうこと”に走ってしまってるのは悲しいものがあるんだろう。 「・・・でさ、今はもう、えりかちゃんがいつも側にいるわけじゃないから、エッチっていう手段で千聖の心を癒してあげる人がいなくなってしまった。」 「そこで、千聖に甘えられた(ふたなりの)舞美ちゃんが、うっかりそういう関係を持ってしまった、と」 ――ありえる・・・・。 舞美ちゃんは落ち着けば何事もフツウの判断がくだせるのに、慌てるととんでもない方向に物事を進めてしまうことが多々ある。 63 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 15 58.73 0 「可愛いもんね、お嬢様。なんかほっとけないし。わかるよ、舞ちゃんの言うこと」 私はいつぞや、千聖のおうちで、胸を触りあったことを思い出した。その前もあったな。トイレで・・・ 「多分ね、お嬢様の千聖にとっては、そういうことするのはたいしたことじゃないんだと思う。単なるすっごく気持ちいいスキンシップってだけで。 だから愛理とだって触りっこするし、舞がお願いすれば舞にもそうしてくれる」 「お願いしたのかよ」 「んま、さすがに初体験を捧げちゃうとは思わなかったけど。舞美ちゃんも千聖も勢いで突っ走っちゃうからなあ」 ――さすが、千聖ヲタ最強のマイマイさん。観察眼発達しすぎやろ。 だけど、何だか不思議な感じ。舞ちゃんは確実に、千聖に恋しちゃってるはずなのに、こんな冷静に分析する余裕があるなんて・・・ 「・・・怒ってないの?」 恐る恐るたずねると、舞ちゃんはちょっと目を見開いて、首を振った。 「いや。むしろ、覚悟が出来たって感じ」 「覚悟って?」 ――ガチャッ その時、後ろのドアが大きな音を立てて開いた。・・・ご両人の登場だ。 舞ちゃんが静かに席を立った。 64 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 17 06.08 0 * そもそも、ふたなりというのは、生殖機能があるのかしら?ちゃんとインターネッツでヤフッておけばよかった。 それにしても・・・まさかみぃたんと千聖が。私はため息をついた。 えりこちゃんと千聖が、かなり進んだ関係を持っていることは知っていた。最後の最後までは誓ってやっていない!とえりこちゃんは言っていたから、まあ、触るぐらいまでだろうけど。 1億5千万歩譲って、千聖とみぃたんがエッチなことをするのは、まあ、2人の問題だからしかたない。でもね、でもね、だけど。赤ちゃん・・・が、できたというのは・・・すっごい、ダメでしょ。どう考えても。だから私みたいにおなっきぃにしておけば・・・ しかしきっと、あの2人の子なら、100メートルを8秒で走っちゃうような超人に育つんだろうな・・・なんてどうでもいいことが頭をよぎった。 まあ、でももう起こってしまったことは仕方がない。 とりあえず、次の講演は休ませて・・・あとは妊婦さんへの対応や出産までの対策をインターネッ 「みんな、遅くなってごめん!」 いきなり、ドアが開いたと思ったら、みぃたんが千聖の肩を抱いて現れた。若干顔色は冴えないものの、もう千聖は元気そうだった。 「千聖、だいじょう・・・」 立とうとしたら、ぐいっと謎の圧力がかかって、私は強制的に椅子に着地させられた。・・・舞ちゃんだった。 「舞ちゃん・・」 みぃたんには目もくれず、千聖の前に立つ舞ちゃん。不思議そうな顔をしている千聖と、真顔の舞ちゃん。ちょっと不思議な取り合わせだ。 65 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 18 02.40 0 「千聖、お腹は大丈夫?」 「え・・・っと、はい。お腹は大丈夫です。」 「そう。もう千聖1人の体じゃないんだから、体調には気をつけないとね」 舞ちゃんは優しい顔で笑った。嫉妬にかられて掴みかかったりしたらどうしようかと身構えたけど、そんな心配は無用のようだった。 「あの・・・?」 「ちしゃと。舞はね、もう、ちしゃとの浮気性は仕方がないってわかってるから。それでも惚れてる舞の負けなんだし」 「え、ま、舞?」 若干半笑いになってるみぃたんをキッと一睨みして、舞ちゃんは千聖を隣の椅子に座らせた。 「ちしゃと。今の舞はまだ甲斐性なしだし、社会的地位も不安定で、ちしゃとを十分幸せにしてあげられるかわかんない。 でも、これからもっと一生懸命働くし、もちろん毎日寄り道しないで家にも帰る。 他の人に目移りするなんてありえない。一生千聖と・・・その、子のために尽くすから。だから、 舞と、一緒になってください」 舞ちゃんの細い腕が、千聖の小さな体をしっかりと抱きしめた。 (ダーンッ)エンダーーイアーーイウィルォルウェーーーイ ラブユウウウウウゥゥゥウウウアアアア 私の頭の中に、2人を祝福する超ソウルフルな歌声が響き渡った。・・・何これ、泣けるんですけど・・・・これぞ、無償の愛! 66 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 18 49.92 0 一方、突然の告白に困惑した千聖は、しきりにまばたきをして、舞ちゃんの肩越し、何がなんだかわからないといった感じで私の方を見る。 「ウッウッ・・・よかったね、千聖。ヒック。これで、ヒック、千聖は、もういろんな人と、ヒック」 「えーっ!どうしたの、何泣いてんのなっきぃ?」 「だまらっしゃい!この種馬が!」 涙鼻水だくだくで凄む私にビビッた舞美ちゃんは、怖いよーなんていいながら、愛理に抱きついた。な、なんてこと!さっそく違う雌に鞍替えか! 「あ・・・あの・・・舞さん・・・?」 一方、少し落ち着いてきた千聖は、そっと舞ちゃんから体を離した。眉をへの字にして、困っているみたいだ。 「・・・」 舞ちゃんは、言いたいことは言ったとばかりに、腕を組んで千聖の返事を待っているようだった。沈黙に耐えられなくなった千聖が、口を開く。 「あの・・・えっと・・・ま、まずは、あの、ありがとうございます」 「うん」 「あの・・・でも、千聖・・・舞さんのおっしゃっていることが、よくわからなくて・・・その子、というのは、どちらのお子さんのことを?」 「だから、舞は、舞美ちゃんのことも大好きだから、舞美ちゃんの子でもちゃんと愛してあげられるって話」 そう言われて、千聖はしばらく考え込むような顔をしたあと、驚愕の表情でみぃたんの方を振り返った。 「ま・・舞美、さん・・・今、お腹にお子さんがいらっしゃるの・・・・・?」 67 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 19 49.24 0 「えっ!な、何言ってんのちっさー?何で何で?私?何で?」 当然ながら、舞美ちゃんにも動揺が走る。もう、千聖のにぶちん!いい加減わかるでしょうが!舞ちゃんもさすがに顔をしかめる。そして、ちょっと大きい声で言った。 「だから!いるんでしょ!千聖のおなかの中に!舞美ちゃんの子が!」 「・・・・・・・・・え?」 舞ちゃんが思いっきり指さす、自分のおなかをまじまじと見つめて、千聖はぽかーんと口を開けたまま固まってしまった。 「ちょ、ちょっとストレートすぎだよぅ」 「だって、ちしゃとが鈍いんだもん!舞がこんなに・・・」 「・・・ごめん、舞ちゃん。ちょっと何言ってるかわかんない」 「「「「あっ」」」」 再び顔を上げた千聖は、いわゆる“元の千聖”に戻っていた。 あまりのショックで入れ替わってしまったのか。お嬢様の時より気の強そうな眼差しで、訝しげに舞ちゃんを見ている。 「・・・千聖、何があったか覚えてる?」 さっそく、一歩引いて冷静だった愛理が、千聖に記憶の確認をする。 「んー。大丈夫。今日コンサートでしょ?リハのことも覚えてるし、バッチリデース。でも舞ちゃんの言ってることは本当にわかんない」 68 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 20 51.57 0 「はあ!?なにそれ!じゃあさっき洗面所で舞美ちゃんと話してたことはなんなの!」 さすがに、元の千聖に対しては容赦がないようで。舞ちゃんは千聖の肩をつかんで揺さぶる。 「そ、それは・・・てか痛い!やめてよ、もう!大体、さっきの何あれ!何で千聖が浮気性なわけ!?浮気性は舞ちゃんでしょ!千聖が、千聖がいるのにさ、田中さんとかさ、愛佳とかばっかりじゃん!千聖は舞ちゃんと一緒にいたいのにさ!」 「・・・舞はいいんだよっ!あれは浮気じゃないもん!いいじゃん最後には千聖のとこもどってるんだから。それに比べて、ちしゃとはいろんな人とエッ」 「はぁーいはいはいはいはい、もうそこまで!」 もう、痴話喧嘩はあとにしてちょうだい!私はたまらず、2人の間に割って入った。 「・・・とりあえずね、千聖。舞ちゃんも言ってたけど、私たち、さっき聞いちゃったんだ。洗面所で、舞美ちゃんと千聖が話してたこと」 そう言うと、千聖はゲッと小さくつぶやいた。そのまま、舞美ちゃんと目を合わせて気まずそうな顔になる。 「全部聞こえたわけじゃないけど・・・でも、あれは、千聖を身篭らせてしまった舞美ちゃんが、責任取るって言ってたんでしょ?」 「みごっ・・・違うよ、なっきぃ!え、だってさそもそもそんなわけなくない?何でそうなるの?」 「・・・じゃあ、なんの話してたの?」 舞ちゃんに問い詰められると、千聖は口を尖らせて「・・・言いたくない」とつぶやいた。 「何でよ、そんな隠すってことは、やっぱり本当に赤ちゃんできたんじゃん!つわりだったんじゃん!」 「つわり!?もう、わけわかんないよ舞ちゃん!あれはね、あれは・・・・」 69 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 21 53.90 0 一呼吸おいて、千聖はキッと目に力を込めた。 「あれは、魚の骨が引っかかったの!」 「さ、か、な・・・?」 「そう!ほら、それ!お昼の鯵の骨!だから千聖、苦しくなって洗面所に」 「・・・だったら、何で舞美ちゃんがあんなに謝ってたの?責任取るとか言ってたのも聞こえたんだけど」 みんないっせいに舞美ちゃんの方を向く。いきなり注目されて若干慌てたのか、「いやいや、アハハ・・」なんて胸の前で手をぶんぶん振ってから、ようやく喋りだした。 「もう、言っちゃうねちっさー。」 「うん・・・」 「あのね、私、いっつもお魚が出たとき、ちっさーのお魚の骨を取ってあげてたのね。」 「え・・・な、なんで?」 すると、ちっさーは小麦色のお肌を真っ赤に染めて、すっごくちっちゃい声でフガフガ言い出した。 「千聖、う・・・・うまく、取れないから、骨・・・。だから、いつも・・・舞美ちゃん、に・・・」 私の横で、舞ちゃんがス●ンジボブのような顔で、今にも千聖に飛び掛りそうになっていたから、愛理とともに無言で押さえつけさせていただいた。・・・舞様、℃Sとしてはものすごい興奮するシチュエーションなのはわかるけど、どうか落ち着いてください。 70 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 23 16.33 0 「そうそう。でね、今日も鯵って骨が多いでしょ?だから綺麗に取り除いてあげたつもりだったんだけど、太いのが残ってたみたいで、ちっさーの大事な喉傷つけちゃった!わたしのせいで」 「違うってば!千聖が考えなしに一気に食べたからこうなったの!舞美ちゃんは全然悪くないんだって!」 ――アーハン。なるほど?太いのが?(喉の)奥まで刺さって?血が出たと?みぃたんが?何度も千聖の首筋や喉を触っていたのは?骨が引っかかってないか?辿っていただけだと? 「キュフフフフフフフフフ」 「ケッケッケッケッケッ」 「え、あいりん?なっきぃ?な、なんだよ、笑わないでよ・・・」 「「あっはっはっはっはっ!」」 あまりのバカらしい展開に、私と愛理は抱き合って笑い泣きしてしまった。ふふふふ、ふたなりちゃうわ!みぃたんとんだとばっちりだ! 「ちっさーが恥ずかしいって言うから、みんなにバレないようにこっそりお皿交換してたんだ。何かちっさーっていっつも私のことドジだ天然だっていじってくるでしょ? なのに、そうやって頼ってくれるのが可愛くて嬉しくなっちゃった。」 みぃたん、デレデレ。なるほどこれは、甘いといわれても仕方のないリアクションだ。一方千聖は、相変わらず顔を真っ赤にしたまま、ちょっと泣き出しそうになっている。 「ちーさーとちゃんっ♪・・・いや、これからは鯵聖ちゃんと呼ばせていただこう。ねえねえ、今どんな気持ち?みんなに魚の骨取れないって知られちゃいまちたね?15歳にもなって?ぜひ、今のお気持ちを一言お願いします!」 そして、舞ちゃんは心底嬉しそうな顔で、千聖の周りを高速スキップしている。 71 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 24 19.01 0 あれだけ心配して、愛の告白までした反動で、舞ちゃんは本来の性癖が大噴火してしまったみたいだ。 「な、何だよ舞ちゃん。うるさいよ。しょうがないじゃん、だって、骨引っかかるのやだし・・・そ、それにね、さっき舞ちゃん言ってたじゃん。一生千聖に尽くすとかって。そんな態度でいいの?」 「はぁーん?そんな約束、もう忘れちゃいましたぁーん。さーて、愛佳たちんとこ行ってこよ!今日は話すことがいーっぱいできたし」 「やだやだやだ!絶対言わないで!もーマジ意地悪すぎ!待ってよ!」 千聖と舞ちゃんは追いかけっこしながら、外の方へ出て行ってしまった。 「はー、もう、どうなることかと思った・・・」 私は大げさに天を仰いで、椅子にぐったり座り込んだ。 「そりゃさ、みぃたんと千聖の赤ちゃんだったら、℃-uteみんなで育ててあげることはできるけどぉ・・・」 「・・・ねー、それってつまり、私が男の人なんじゃないかって疑ってたってこと!?しかも、ちっさーを妊娠させちゃったって思ってたってこと!?」 「もー、だからさっきからそう言ってるじゃーん・・・ケッケッケ」 愛理が口ずさむようにそういうと、舞美ちゃんは「ひどーい!」と汗をかきかき抗議してきた。 「私、ちゃんと女性だよ!見る?」 「いいです!ごめんごめん、わかってるから!」 ムキになって、モサフリワンピースを脱いでパンツを下ろそうとする舞美ちゃんを2人がかりで宥めた。 「でもね、みぃたん!なっきぃは安心したんだよ、本当に」 「ん?」 「だって、みぃたんは千聖とふしだらな関係を結んでないんでしょ?もー、本当それだけでも・・・」 72 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2010/02/03(水) 17 25 44.38 0 「ははっ?」 「え・・・何その笑い」 みぃたんは、なぜか某夢の国に生息する二足歩行鼠のような笑いを漏らして、私から体を遠ざけた。 「み、みぃたん?」 「さ、私も桃子たちのとこ行ってこよっと!また後でねー!」 「ま、待ってみぃたん!みぃたんは千聖と何にもしてなギュフー!!」 慌てて後ろを追うも、思いっきり閉められた扉に顔をぶつけて、私はズルズルと床に崩れ落ちた。 ――じょ、冗談だよね?みぃたんはたまにタチの悪いブラックジョーク的なものをかましてくることがあるし、そういうことだよね?いやそうに違いない。絶対そうだ。信じてるからね、みぃたん! 「ケッケッケ、前途多難だねぇ」 優しく私の顔をハンカチで拭きながら、愛理も可愛い八重歯を覗かせて不気味に笑った。こ、この悪魔どもめ! 「・・・今日からグループ内不純同性交友は禁止だから!いいねっ!」 「えー?なんのことですやら?ケッケッケッケ」 こうなったら、意地でも千聖と清い関係でい続けるケロ!と私は鼻息を荒くしたのだった。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「ら・・・ランチ!」 「ち?血祭り」 ひぎぃ! 「キュフフ、ほら、えりこちゃんの番だよ。」 バスは走り出してしまった。もう引き返すことはできない。 私と千聖となっきぃは後部座席に3人で座って、しりとりをはじめた。 千聖は可愛らしく 「YES!幸せ!」とか「き・・・℃-ute」とかにこにこ笑顔で答えているのに、なっきぃときたらさっきから選ぶのは 「制裁」 「投獄」 「処罰」 と言った明らかに私に向けた言葉。 「早貴さんたら、怖い言葉を選ぶのね。」 「キュフフ。劇ハロの役作りだケロ♪」 なっきぃめ。お嬢様にはいつもの調子で対応しているくせに、私のことはギラギラ目を光らせて監視しているみたいだ。 よーし・・・ 他のメンバーも同じ車内にいるから、私はさっきほど恐怖心に支配されていない。 ここは年上の意地見せたる! 「えっと?り、だっけ。じゃあ、りんかん。ちさとを」 「ギュフ!り、輪っ」 なっきぃの手の中で、ミカンがぶちゅっと潰れた。 「う・う・うめ・・・おま、うめっ・・・・・・」 キョトンとしてる千聖お嬢様の手前、激怒できないなっきぃは山姥みたいな形相で私をにらみつける。 「あっごめんごめん千聖を林間学校に連れて行きたいな、の林間学校!あれあれなっきぃ、どうしちゃったのかな?鼻息が荒いですぞ?」 へっへーん、どうだまいったか! なっきぃは顔を真っ赤にして、不敵にニヤリと笑いながらみかんまみれの手をペロリと一舐めした。 ごめんなさいやっぱり怖い。 「林間学校?楽しそうね。じゃあ、う・・・後ろ前で。」 「後ろ前?」 千聖はいたずらっこの表情になって、私となっきぃにだけ聞こえる声で耳打ちしてきた。 「うふふ。えりかさん、そのキャミソール、後ろ前ではなくて?」 「うわっ!本当だーえりかちゃん恥ずかしいーキュフフフ」 うぐっ・・・・! どうりで首が詰まってると思った。せっかく優位に立てような気がしたのに、千聖め。後でHなお仕置きだ! 「させねえよ。」 なっきぃが笑顔のまま、私にだけ聞こえる声で呟いた。 何だ、何なんだ。なっきぃはサトリなのか。 「じゃあ、次なっきぃね。え、だよね。え・・・援交!援交援交援交えりかちゃんが援交」 「ちょっ!何言ってんの!」 とっさになっきぃの口に、さっきのみかんをガッと押し込む。 「モギュ!・・・・あ、すっぱいみかんもおいしいね。モコ゛モコ゛。・・・・ところでえりかちゃん、どうしたの? なっきぃは、落語家のさんゆうていえんこう師匠のことを言ったんだけど?キュフフフ」 嘘つけnksk!落語の話なんてしたことないだろうがあああ 「ふ、ふふ、そう。落語ね。圓好師匠、ね。」 「キュフ、キュフフフ」 血で血を洗うしりとり合戦。なっきぃも私もヒートアップして、いつのまにかお嬢様をおいてきぼりにしていた。 「・・・えりかちゃん、なっきぃ。」 急に名前を呼ばれて我に帰る。 前に座っていた愛理が、千聖の耳を手で押さえながら、こんな顔州;´・ v ・)で私たちを見ていた。 「・・・・すみませんでした。」 「うん。」 何も言われないで、困った顔をされるのが一番堪える。 さすがに反省した私たちは、その後は健全なしりとりに興じることとなった。 なっきぃの眼光は、相変わらず私を捉えたままだったけれど。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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電車で家に向かう間、私はずっと千聖の手を握り締めていた。 私の手は冷たくて、千聖の手はあったかい。2人の体温が混ざる感じがして、ひそかに嬉しく思った。 「ん?」 ふいに、ほっぺたにくすぐったい感触。 千聖の方を向くと、うつむいて頭をコックリコックリさせている。 珍しいな。お嬢様になってから、千聖は基本的に乗り物の中で寝ないようになっていた。 移動中でも誰か起きていないと、不測の事態に備えられないでしょう?何て言ってたのに、よっぽど疲れているんだろうな。 前の千聖だったら、舞と2人で寝過ごしてケンカになってたかも。舞ちゃん起きてるって言ったじゃん!違うよ千聖が起きてる番でしょ!とかいって。そんなことを考えてると、ちょっとくすぐったいような気持ちになって、私は一人肩を竦めた。 私は一体、千聖のどこがこんなに好きなんだろう。 本人に打ち明けたことはないけれど、私は千聖がお嬢様化する前から、ずっとずっと千聖を独り占めしたいと思っていた。 明るくて元気でお調子者で泣き虫で遅刻魔で、太陽みたいな前の千聖が好き。 おしとやかで優しくてしっかりもので女の子らしい、陽だまりのような今の千聖も好き。 全然違う人間になってしまったというのに、私の恋心はまったく揺るがずに、千聖に囚われたままだ。こうして、今も、ずっと。 「変なの。」 千聖の頭にほっぺをくっつけながら、独り言をつぶやく。 そもそも、好きとか愛してるって、一体何なんだろう。どうして人は人を好きになるんだろう。幸せだと思ったら切なくなったり、こんなに心が乱されて苦しいのに、何で私は千聖しか見えないんだろう。 「ふふ」 いくら考えたって、答えは出ないってわかっているのに。まるで国語の教科書みたいな自分の思考が面白くて笑いがこみあげてくる。 ――きっと、千聖もえりかちゃんに同じ気持ちを抱えているんだろうけど。それは本当に気に食わないんだけど。それでも、千聖は今は私のものだから。 誕生日サプライズを成功させて、千聖と仲直りもできた今、私は恐ろしく機嫌が良かったのだった。 まだ家に着くまで、20分ぐらいかかる。 千聖の言う“不測の事態”とやらに備えて、とりあえず目を開けておくことにした。 「ただいまー」 「おかえりなさい。いらっしゃい、千聖ちゃん。」 家に着くと、ママがニッコリ笑いながら玄関で待っていてくれた。 「お邪魔します、小母様。」 「あら、ご丁寧に。」 ププ、おばさまだって。昼ドラでしか聞いたことがないような言葉遣いに私は笑っちゃったけれど、ママはなんだか嬉しそうだ。 「今日はもうごはん食べてきたから。舞の部屋にいるね。」 そう言い残して、千聖と連れて部屋に入った。 「散らかっててごめんね。」 「いいえ、そんな。舞さん、あの、お話というのは・・・?」 「・・・あー、ちょっと待って。お茶入れてくるから。そこ、ベッドにでも座ってて。床はおしりが寒いでしょ。」 千聖の視線を避けるかのように、私はあわてて廊下に出た。 困ったな。2人きりになることを望んだのは自分なのに、いざこうしてそれが実現すると、こんなにも心が乱れてしまう。 大体、勢いで連れてきてしまったものの、私は何の話をしようとしてるのか自分でもわからない。 全部解決って、どうしたら解決したことになるんだろう。えりかちゃんと千聖の旅行を阻止できたら?・・・ううん、それは違うと思う。 そのことで千聖が傷ついて泣くようなことになるなら、どーぞどーぞと送り出してあげるほうがまだマシだ。 私はたしかにSだし千聖の泣き顔はとても大好きですけれど、それは心を傷つけて生み出されるものではなく(以下略) ぐだぐだ考えながらリビングに入って、お盆にコップとお皿を並べる。 「ママ、麦茶もらうね。あとこのお菓子。千聖これ好きだから。」 結局、今日私は千聖と2人で過ごしたかっただけなのかもしれない。それならそれでいいんじゃないか。きっと千聖も笑って納得してくれる。楽しくおしゃべりして、バイバイしよう。 足でドア閉めないの!という注意を背中に受けながら、私は大急ぎで部屋に戻った。 「千聖ー。あれ・・・」 てっきり本でも読んでるのかと思ったら、千聖は私のベッドにパッタリと倒れこんでいた。 下半身は座った姿勢のまま、上だけ横たわって目を閉じている。 どうしたんだろう。さっきの電車の中でのことといい、相当疲労が溜まっているんだろうけれど・・・大丈夫かな。 「ちさとー。」 「んぅ・・・」 軽く揺すっても起きない。 まだそんなに遅い時間じゃないから、舞のベッドを少し貸してあげることにした。 「よいしょっと」 横向きの千聖の体をゴロリと転がして、腰から下もベッドの上に乗っける。少し力が強すぎたのか、千聖のちっちゃい体はぐるんと回ってうつぶせになった。ひらひら素材のワンピースがめくれて、オレンジのドット柄のパンツがチラリした。 「うわうわ」 あわててスカートを戻すも、目に焼きついた柔らかそうな内腿に心臓が高鳴る。 「千聖・・・」 また、あのビデオのことを考えているときみたいな気持ちになる。しかも今は妄想じゃなくて、本人が目の前にいる。顔を近づければ、柑橘系のシャンプーの匂いを感じることだってできる。 「んー・・・」 ずっとうつぶせで呼吸が苦しくなったのか、千聖は軽く唸りながら寝返りを打った。今度は仰向け。寝乱れた前髪の下で、長いまつげに縁取られた瞼は深く閉じられている。 呼吸で膨らんだり引っ込んだりするおなかを撫でて、無防備に投げ出された小さな手を握る。 私は何をやってるんだろう。 こんなの、どう考えても普通じゃない。自分でもあんなに言い聞かせていたのに。妄想と現実は違うんだって。でも、私の指は千聖を辿ることをやめてくれない。 「千聖。千聖・・・」 何度も名前を呼んで、顔を近づけていく。どうしよう、私は女で、千聖も女なのに。もう何がなんだかわからない。抑えられない。私は千聖の唇に、自分の唇をくっつけた。 千聖とキスすることは初めてじゃない。海で逃避行した時と同じ、唇をくっつけるだけの単純なキスだけど、私はやっぱりあの時みたいな幸せな気持ちになれた。 千聖の息が、唇を通して伝わってくる。幸せなのに泣きたい不思議な気持ちが湧き上がってきて、そのちっちゃい頭を自分の胸に押し付けた。 やっぱり、どうしても好きで仕方ない。私の千聖だと、胸を張って宣言したい。私はどんどん欲張りになっていく。 「んん」 むずかる声が心臓に直接響く。もう一回、キスしたい。できたらもう少し大人のやつを。私は千聖の頭に手を回して、再び顔を近づけた。 「千聖、スキ・・・」 そしてもう一回唇を重ねる寸前。 唐突に、千聖の目がパチッと開いた。 「え・・・・?舞ちゃん・・・?」 「・・・舞ちゃんっ、て。」 ――違う。お嬢様じゃない。 私を見つめる、困惑の眼差し。軽く寄せられた眉と半開きの唇はヒクヒクしている。要するに、ドン引き顔。 「何、やってるの・・・」 「え、待って千聖。え、だってえりかちゃんがいないと元には戻ら」 「ううっわマジで!何で?舞ちゃんもなの!?やだやだもうありえない!」 何が舞ちゃん“も”なのかは知らないけれど、いきなり前のキャラに戻った千聖はぐいっと私を押しのけようとした。 「待ってってば!」 反射的に思いっきり腕を引くと、無理な体勢で暴れていた私たちは、一緒にベッドに倒れこんだ。 「うわっちょっと痛いよ!舞ちゃん!」 千聖の声は笑っていた。これでいつものふざけ合いに戻ると思ったんだろう。だけど、私の方がそうはいかなかった。 「千聖。」 寝転がる千聖の上に、私が重なっている。手は千聖の顔の横について、そんなつもりじゃないけれど、押し倒しているみたいな体勢になっていた。 「・・・舞、」 千聖の顔から、笑顔が消える。めったに見せない狼狽した顔で、私の視線から逃れるようにそっと目を伏せた。 なんで。 声にならなかったものの、千聖の唇がそう紡いだ。そんなの、舞にだってわからない。嫌なら怒ればいい。抵抗すればいい。 私の力じゃ本気の千聖をねじ伏せられないことぐらい、わかってるはずだ。 「千聖。千聖・・」 もうどうにでもなれ。自暴自棄になった私の目は、机の上の“ある物”を捕らえていた。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ 栞菜を千聖の待つファミレスに送り届けた後、私は帰りの電車の中で頭を抱え込んでいた。 “今度トロントロンにしてあげる” 千聖があんまり沈んだ声だったから、ちょっとふざけて和ませようとして囁いた言葉を、なっきぃに聞かれてしまっていた。・・・いや、嘘です。ふざけてない。ちょっと本気だった。 おまけにどういうわけか、栞菜までが私と千聖のナイショの関係に勘づいてしまっていた。 まあこちらは大丈夫だろう。「なっきぃには秘密ね。」とこれ以上余計な情報が入らないように釘をさしておいたし、私のやっていることを責める風でもなかった。 しかし、これはマズイことになったのだ。 今私たちのしていることを知っているのは、愛理、栞菜、なっきぃの3人か。 舞ちゃんは・・・わかんない。少なくとも私には何にも言ってこない。 舞美には前に少しぶっちゃけたんだけど、ペットマッサージみたいなもんだよね!と澄んだ瞳で言われてもう何もいえなかった。 なっきぃ。 彼女にだけは知られるべきじゃなかった。 素直で、いつも物事に真剣に取り組んでいて、自分の意見と違ったら、たとえ年上相手でもしっかり気持ちを伝えるような実直で真面目な子だ。 とりわけ性関係の話題にはかなり固い倫理観を持っていて、 ニュースで痴漢事件を見たときは「こんな人・・・ちょんぎられちゃえばいいのに」と鬼の形相で吐き捨て、 エンコーやってる女子高生のヘラヘラしたインタビューを見たときは激怒して20分間怒りの演説を行って、 舞美のおうちでスカートのまま犬の真似をした千聖を正座させて叱りつけたという逸話もあったらしい。 そんななっきぃの眼に、私が今千聖にしていることがどんな風に映るのかなんて、わざわざ考えるまでもない。 良くて淫行。悪くて性的虐待。どちらにしても、私も「こんな人・・・ちょんぎ(ry」の対象になってしまうことは間違いないだろう。 きっと今日、栞菜と千聖の揉め事はすっきり解決すると思う。 でも私の地獄はこれからだ。こんなこと、誰にも相談できない。 なによりも厄介なのは、私自身が、この期に及んで千聖とのそういう関係をやめようという気が全くないことなのだった。 千聖の体は気持ちいい。 触れてるだけで心が和んで、舞美じゃないけれどまるでペットセラピーみたいな効果があるような気がする。 千聖も気持ちよくて私も気持ちいいならそんなに悪いことじゃないんじゃないか。なんていいたいところだけど、それこそなっきぃには通じない理屈だろう。 「困った。」 あんまりそのことばっかり考えすぎていたせいで、降りる駅を通過して、引き返したのにまた降り忘れ・・・と無駄に3往復ぐらいしてやっと地元に戻ることができた。 「はぁ・・・」 そのまま家に帰る気になれなくて、駅のカフェでお茶を飲みながら時間を潰す。 しばらく一人でいると、だんだん心も落ち着いてきた。 もう話合いは終わった頃かな。どうなったのか、誰かに確認入れてみよう。 カップに残っていたキャラメルマキアートを飲み干すと、私は店を出た。 家まで帰る途中にある公園に寄って、ブランコをキコキコしながらアドレス帳をいじくる。 舞美は電話に出てくれないから、こういう時は大抵説明上手ななっきぃに電話をするんだけど、さすがに今日はそんなわけにいかない。 舞美が出ないなら舞ちゃんか愛理に電話するか・・・ そう決めて舞美の電話番号を呼び出そうとした瞬間、 「うわっ」 ディスコ、ディスコ、ディディディ、ディスコー 静かな公園に、大音量の着メロが流れた。 とっさに通話ボタンを押してから、それがなっきぃからだということに気づいた。 しまった。 何も心の準備が出来てない今じゃなくて、後で家から掛け直すんでもよかったのに。 でも今更切るわけにもいかない。私は覚悟を決めた。 「あ・・・えりかちゃん?なっきぃだよー。今大丈夫?」 「・・・うん、話合い終わった?どうだった?」 なっきぃの声のトーンは普段どおりで、特別怒ってる様子は感じられなかった。 「えりかちゃんのおかげで、上手くいったよ!キュフフ。2人ファミレス出てからどっか遊びに行ったみたい。なっきぃたちも、ご飯食べて帰ったんだ。」 よかった、仲直りできたんだ。 栞菜の泣き顔と千聖の絶望した表情を思い出すと、今でも胸が痛む。 「そっか、じゃあキュートの問題は解決したんだね。」 ちょっと調子に乗ってそんなことを言ってみると、 「いや、してないよね。」 さっきまでのご機嫌なキュフフボイスはなりを潜めて、あの「ちょん(ry」の時のなっきぃのトーンに早変わりした。 背中を冷や汗が伝う。 「・・・ねえ、えりかちゃん。」 「・・・・・・はい。」 打たれ弱い私はもう半泣きだった。 「たしか今週末、DVDマガジンの撮影で泊まりのお仕事があったよね?」 「え?う、うん。あったね。」 「今じゃなくていいの。その時に、えりかちゃんと話がしたいな。」 「・・・ハイヨロコンデ」 「いつでも都合のいい時でいいから。私待ってるからね。永遠に。」 電話を切った私の頭の中では、裁ちばさみを持ったなっきぃがキュフキュフ笑いながら追いかけてきていた。 TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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私の魔法の言葉の効果は、早速次の日からはっきりと現われた。 「おはよう、栞菜。」 「あ、お、はよう。」 レッスンスタジオまでの道を歩いていると、日傘をさしたちっさーが後ろから声をかけてきた。 いつもどおり、ごく自然に振舞うちっさー。胸が高鳴る。 「もう夏も終わりなのに、暑いわね。」 そんなことを言いながら、入る?とばかりに日傘を傾けてきた。 「ありがとう。」 こんな可愛い心遣いをしてくれる子に、私は何てひどいことをしようとしているんだろう。 良心がチクリと痛む。 今日のちっさーは、後ろに大きなリボンのついたシンプルなライトイエローのワンピースを着ていた。歩くたびにふわふわ揺れて、とても可愛らしいと思った。 「ちっさー、チョウチョみたいだね。可愛い。」 「あら、ありがとう。明日菜にも言われたわ。こういう色の蝶、本当にいるんですってね。」 ちょっと照れくさそうに笑うちっさーは、昨日のことなんて何も気にしてなかったかのようにも見えた。 「ちっさー、おしゃれになったよね。よく似合ってる、それ。」 「嬉しいわ。これはね、早貴さんがくれたの。あんまり着ないからって。」 「へえ・・・」 またじわじわと、心臓の鼓動が大きくなってくる。そんな交流があるなんて、私は知らなかった。 「ねえ、ちっさー。今度うちに遊びにこない?栞菜が着なくなった服とかあげるよ。」 「まあ・・・でも、何だか申し訳ないわ。お気持ちだけで嬉しいから、そんなに気を使わないで。」 何で。 私じゃ、嫌なの? 私だって、ちっさーのお姉ちゃんみたくなりたいのに。 「・・・私が、キッズじゃなくてエッグだから?」 気がついたらまた、あの一言を口走っていた。 ちっさーに魔法がかかる。 私に微笑みかけていた表情が一気に強張って、ゆっくり歩いていた足がピタッと止まった。 「栞菜、どうして・・・・?私、そんな風には」 私は無言でちっさーと押しのけて、早足で先に歩いていった。 ちっさーは追いかけてはこない。 やがて私の後ろで力ない足音が聞こえてきたら、なぜだか少し心が落ち着いた。 結局ちっさーは、集合時間直前までロッカーに来なかった。 「あれ、ちっさー珍しいね!今日ギリギリじゃん!」 舞美ちゃんの声に振り向くと、少し慌てた声でごめんなさいと言いながらちっさーが入ってきた。 さっき私に見せていたあの悲愴な顔じゃなくて、いつものおっとりお嬢様の表情に戻っていた。 「おはよう、ちっさー。」 さっきまで一緒だったくせに、とぼけて挨拶をしてみる。 「あ・・・おはよう愛理、栞菜。」 なんだ、特に引きずってはいないんだ。 ほっとすると同時に、なぜかそれを残念にも思っている自分がいた。 「千聖、今日一緒に柔軟やろう。着替え手伝うから急いで!」 舞ちゃんがちっさーの手を強く引っ張っていく。 舞ちゃんはいいな。私みたいな汚い手を使わなくても、ああやってちょっと強引でも正々堂々とちっさーを独占できるんだ。 それに比べて、私のやってることって・・・・ 「栞菜?・・・なんか怖い顔してる。大丈夫?」 「うん。なんでもないよ。それよりさ・・・」 話題を逸らす。 心から心配してくれる愛理に胸が痛んだ。 ごめんね、愛理。 そんな葛藤はあったものの、禁断の魔法の味を知ってしまった私は、どんどんあの言葉を簡単に使うようになっていった。 例えば、何かおそろいの物を持ちたいと思った時。 一緒にコンビニに行って、何か買ってあげたいと思った時。 そして、ちっさーの好きそうな服をあげる時。 主に私がちっさーに何かしてあげたい時には、効果がてきめんのようだった。 慎み深いちっさーは必ず遠慮するけれど、私があの一言を言えば従ってくれた。 悲しい顔をさせることに、罪悪感はあった。 それでもこれは単なる私の親切の押し売りであって、ちっさーを傷つけるのが目的ではないという理由付けができたから、私は自分の矛盾した気持ちから目を逸らし続けることができた。 ちっさーも、私があの言葉を口にしないかぎりはごく普通の態度でいてくれた。 異常な結びつきになってしまったけれど、私たちはいつでも一緒にいるわけではないし、私もみんなの前では魔法を使わなかったから、誰も2人のおかしな状態に気づいてなかった。 そのことが私を増長させたのかもしれない。 私はわかっていなかった。 何でも言うことを聞いてくれる素直な妹ができたとばかり思っていたけれど、お嬢様のちっさーの中には、前の千聖の気の強さもしっかり残っていたということに。 終わりの始まりは意外に早く、そして突然やってきた。 いつもどおり本当につまらないことで切り札を使おうと思った。 ちっさーが私のヘアピンを可愛いと言ってくれたから、すぐに髪からはずして、ちっさーの手に握らせた。 いつもどおり遠慮するちっさーに、また私は「私が・・・」といいかけた。 「・・・そうね。栞菜が、エッグだからかもしれないわね。」 最後まで言い終わる前に、ちっさーは私の言葉を遮った。 唇をギュッと噛んで、強い目で私を睨みつけている。 ――嘘。 だって、ちっさー。 私はただ、私だけのちっさーが 何を言われたか、とっさにわからなかった。 頭が真っ白になる。 「ちっさー・・・」 呆然としたまま名前を呼ぶと、みるみるうちに硬く強張っていたちっさーの表情が青ざめていく。 「あ・・・・私、私何てこと・・・・・」 涙で霞んだ私の眼の向こう側で、ちっさーが力なく床に崩れ落ちた。 同時に、私にも立っていられない程の強い衝撃がゆっくりと襲ってきた。 ちっさーと同じような体勢でへたり込む。 「え・・・ちょっと、どうしたの!?千聖?栞菜?」 なっきぃの声が遠いところから聞こえたような気がした。 涙が止まらない。 ちっさーを怒らせたことがショックなのか、 自分の行いがあまりにも馬鹿すぎたことがショックなのかわからない。 こんなことになって、初めて気づいた。 私は自分の気持ちばかり考えていて、ちっさーがいったいどんな気持ちで私の言葉を受け止めていたのか考えていなかった。 こんなに無神経なのに、何が「ちっさーは私の妹」だ。 本当に最低だ、私。 今すぐちっさーに謝らなければいけないのに、嗚咽で声が出ない。 「栞菜、落ち着いて。大丈夫だよ、息吸って、吐いて・・・・」 舞美ちゃんの大きな手が優しく背中を叩く。えりかちゃんが頭を撫でてくれる。 私はただ、私もこういうお姉ちゃんになってあげたかっただけなのに、どうしてこうなっちゃったんだろう。 こうして私のかけた魔法は、あまりにももろく、簡単に消え去ってしまった。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
https://w.atwiki.jp/stairs-okai/pages/87.html
レッスンスタジオの最寄り駅の改札を通って、私はすぐにトイレに駆け込んだ。 心臓が鳴りすぎて止まるんじゃないかってぐらいドクドクと音を立てている。 吐くかと思ったけれど、冷たい便器に腰掛けているだけで少しは心が落着いた。 「私がキッズじゃなくて、エッグだから?」 ゆっくり呼吸を整えながら、もう一度さっきの言葉をなぞってみる。 考えてみたら、すごい言葉じゃないか。 ちっさーを戸惑わせるだけじゃなくて、自分自身にも刃物を向けるようなものだ。 キッズのみんなは優しい。 キュートだけじゃなくベリーズにも私をのけものにするメンバーはいないし、まるで私もキッズの一員だったかのように接してくれる。 でも本当に些細なことで隔たりを感じることはやっぱりあって、私はそのたびにどうしようもない寂しさや疎外感を味わっていた。 今更こんな風に自滅するまでもないじゃない。 いや、ちっさーを巻き込んだからむしろ自爆テロか。余計にたちが悪い。 ――♪♪♪ そんな馬鹿なことを考えていたら、ふいにメールの受信音が鳴り響いた。 ケータイを開くと、愛理からメールが着いている。 “今どこにいるの?みんな心配してるよ><ちさとも気にしてるみたい” そっか・・・たぶんまだ、ちっさーは私の言葉に傷ついたままなんだ。 そう思ったら、また心臓が高鳴り始めた。 今度は痛みじゃない、むしろ、ジェットコースターでてっぺんを目指すまでのあの高揚感に近い。 ちっさーにあんな顔をさせられるのは、私しかいないんだ。 私だけが知っている、ちっさーの感情を揺さぶるスイッチがあるんだ。 私だけの、ちっさーが。 「・・・何考えてるんだ、私。」 こんなのはまともな発想じゃない。 わかっていても、心の奥からあふれ出てくる感情は否定できない。 私はきっと、特別なちっさーが欲しいんだ。 お嬢様になる以前のちっさーと私は、まあまあ良好ぐらいの関係を保っていたように思う。 私は常にどこか特定の輪に入っていなければ不安になるタイプの寂しがりで、 ちっさーは誰でもいいから常に適度に構われていたいタイプの寂しがり。 同じ寂しがりでもその方向性は正反対だったから、ずっと一緒にいるということはなかった。 真面目な話なんて全くせず、お馬鹿な遊びだけは2人で誰よりノリノリでやるような、ある意味で一番薄いつながりだったのかもしれない。 一人っ子で、人との間に強いつながりを求める私にとっては えりかちゃんと舞美ちゃんはお姉ちゃん。 愛理は相方。 いつもまっすぐで頼れるなっきぃとは同級生コンビ。 舞ちゃんは年齢よりかなり大人っぽいから妹っていうより、よきライバルという感じだった。 でも、ちっさーは・・・私にとって何なのだろう。 頭を打ってからのお嬢様ちっさーとは、愛理と3人でよく一緒にいるようになった。 前みたいにふざけっこはしなくなったけれど、ファッションやメイクの話で盛り上がったり、会話の幅は広がった。 それでもちっさーはやっぱり愛理との方が仲がいいみたいだったし、2人だけでお買い物に行って私は誘われなかったということもあった(このことはもう引きずるなってえりかちゃんに言われてるけど・・・) それで私は、ちっさーを「私の妹」と発言するようになった。 私のパシイベでもそう言ったし、ちっさーの時にもそういうメッセージを送った。 ちっさーは「ありがとう、栞菜。嬉しいわ。」なんて言ってくれたけど、私なんかよりえりかちゃんや舞美ちゃんを頼っているのは明らかだった。 なっきぃとの結びつきだってずっと前から強い。 私はどうにかして、みんなみたいに、ちゃんと中身の伴った私だけのちっさーを手に入れたくてたまらなくなっていた。 そして、さっき・・・とてもとても歪んだ形だけれど、ちっさーへの罪悪感と引き換えに、それを少しだけ手に入れることができた。 私にだけ、誰にも見せないような傷ついた顔を見せるちっさー。 これからはあの一言を言うだけで、簡単に特別なちっさーを引き出すことができる。 こんなひどい感情は、まだ誰にも打ち明けることはできない。 愛理に返事は打たず、ケータイをかばんに放り込んでトイレを出た。 タイミングよくホームに入ってきた電車に飛び乗って、窓の外を眺める。 本当にこれでいいの? そう思いながらも、窓に映る私の顔はカサカサに乾いた心のまま少しだけ笑っていた。 戻る TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「もう、気が済んだでしょ。離して」 だけど、そんな幸せな気分は、千聖の憮然とした声で打ち砕かれた。あんまり聞いたことがないようなその声色に、私は不安を覚えた。 抱きかかえるようにして体を起こすと、ちょうど向き合うような体勢になる。千聖は完全に無表情だった。いつも喜怒哀楽がはっきりしていて、顔を見れば機嫌がわかるはずなのに。緊張で、喉がキュッと音を立てた。 「千・・・」 「これ、外して。痛い。」 「あ、あ・・・うん」 まだ喋り方は淡々としていたけれど、千聖は眉間に皺を寄せて不快そうに体を捩った。例えネガティブな感情でも、まだこうして意思を表してくれた方が安心する。私は少し安心感を覚えて、急いで机の上の鍵を取った。 「・・・」 手錠が解ける。自由になった右手をさすりながら、千聖はじりじりと私との距離を離していく。 「・・・・・・何か、こういうこと、無理やりされるっていうのが、どういうことかわかった。」 「千聖、」 「そんなのわかりたくなかったけど。怖かった。本当に。嫌だったんだよ」 まるで独り言のように、千聖はスカートの乱れを直しながら淡々と話し続ける。 「ごめ・・・」 「謝るぐらいならさぁ、最初からやらなきゃいいじゃん」 「ごめん」 「だからさぁ」 苛立つような口調。そのまま怒ってくれたほうがまだマシだったけれど、千聖の目には涙がいっぱい溜まっていた。それで私は今更、自分のしでかした事がどういうことなのか、やっとわかった。 こんなことはするべきじゃなかった。千聖の煮え切らなさや私への甘さにつけこんで、結果的にひどく傷つけた。 「私はおもちゃじゃない」そう言って嫌がっていたのに、私はわざと聞き流した。どんなことをしても、千聖は最後には許してくれると思っていたから。えりかちゃんへの対抗心や、自分の中で膨らんでいた欲望を解消するために、自分の意思を貫いてしまった。 「・・・・帰る。」 気まずい沈黙の後、千聖はポツリとつぶやいた。 「待って。ママに車出してもらうから」 「いい。一人で帰りたい。」 「でも、その方が不自然だから。お願い、送らせて。」 必死で食い下がると、千聖は小さくため息をついてうなずいてくれた。 どうしよう。私がバカだった。 お嬢様の千聖を泣かすのはもちろん嫌だったけれど、正直この千聖に嫌われるのはもっと大打撃だった。冷や汗が吹き出る。 帰りの車の中で、千聖は一度も私の顔を見てくれなかった。ママに話しかけられた時は普通にしていたし、私が話しかければ答えてくれたけれど、私の胃は余計にキリキリ痛むだけだった。 「・・・あ、この辺でいいです。ありがとうございました。」 「そう?それじゃあ、気をつけてね」 「はい。」 「千聖・・・」 「舞ちゃん、明日頑張ろうね」 千聖は早口でそう言うと、さっさと車を降りて歩いていってしまった。信号を渡って、小さな背中がどんどん遠ざかる。 どうしよう、どうしよう。時間を元に戻せるなら、どうか今日舞の家に来る前までタイムワープしたい。いや、むしろなっきぃとエッチビデオを見てしまったあの時まで・・・ 「喧嘩でもしちゃったの?どーせ舞が千聖ちゃん怒らせちゃったんでしょ」 「うるさいな」 勘のいいママが、今はちょっぴり憎らしい。私はブランケットでバサッと体を包むと、フテ寝を決め込むことにした。・・・でも頭が興奮していて、ちっとも眠くならない。 さっき、ちょっと泣いてたな。そういえば、千聖は基本的に、マジギレというのをできない性格だった。怒ると泣いて凹んじゃう、なんて自分で言ってたぐらいだ。私は誰よりもそのことをわかっていたはずなのに、あまりにも思いやりのない行為だった。 千聖は長女のわりに甘えん坊だと思っていたけど、本当にワガママでガキなのは自分のほうだって、こんなことになるまで気がつけなかったことが情けない。 明日はゲキハロ初日なのに、果たして私も千聖も大丈夫だろうか・・・ 翌日。 「おはよ・・・」 「あら、おはようございます、舞さん。」 だけどそんな心配とは裏腹に、舞台上でなっきぃと台本の読みあわせをしていた千聖は、私の姿を捉えると、ぴょこっと頭を下げて微笑んだ。 キャラはお嬢様に戻ってるんだ。私は一瞬、千聖が昨日のことを覚えていないんじゃないかという期待を覚えた。でも、 「千聖・・・」 「あ、舞美さん。この台詞の間についてですけれど・・・」 「ねえ、」 「ごめんなさい、今ちょっと。愛理、このシーンの立ち位置を・・・」 調子付いて話しかけようとすると、プイッと違う人の所へ行ってしまう。一見本番に備えての確認に奔走しているようにも見えるけれど、よく聞けばさほど重要なことを話してわけでもない。 それこそ、長年の付き合いだからわかる。千聖は明らかに私を避けている。心が重く沈んでいく。 「舞ちゃん、大丈夫?」 そんな私の様子にいち早く気づいてくれたのは、えりかちゃんだった。 「うん・・・」 「千聖、ちょっと変だね。何かあった?」 普段はおふざけ仲間で、誰よりもはしゃいじゃうところがあるえりかちゃんは、こういう時は意外に年下組の様子を見ていてくれている。 「うん・・・・」 えりかちゃんは恋敵だけど、それ以前に私の大切なおねえちゃんだ。弱ってるときに優しくされたら、そりゃあ甘えたくなってしまう。 「舞、千聖にひどいことしちゃった。千聖が何でも許してくれるって思い込んで、怒らせちゃったの。でも、普通に謝るんじゃ足りないっていうか、どうしようもない気がして。」 内容が内容なだけに、あんまり詳しくは言えなかったけれど。それでもえりかちゃんはこんな端折った説明だけで「ふーん。そっか。」なんて言ってうなずいた。 「え・・・今のでわかるの?」 「何となくね。可愛い妹たちのことですから。」 そう言って、私の頭を肩に乗っけてくれる。 「きっと、千聖は舞ちゃんが何を考えてるのかわからないんじゃないのかな。」 「わからない・・?」 「ウチの予想だと、舞ちゃんはきっと、何の説明もなしに、いきなり千聖にワガママを言った。もしくは、何か強引にやらかした。」 「・・・うん。そうだと思う」 えりかちゃんの声は柔らかくて、それでいて頼もしい。心の中を見抜かれてしまうのは恥ずかしくて嫌な事のはずなのに、優しさが自然に染み入ってくる。 「もう、だめかも。ある意味犯罪者だもん、舞。」 「ええ???」 「だって・・・」 こういうの、何て言うんだっけ。セクハラ罪?痴漢罪っていうのはあるのかな。とにかく、そういうヘンタイ系の罪になることは間違いない。 「いや、まあ、でもさ。今ならまだ大丈夫だと思うよ。そんな、犯罪者だなんて怖いこと言わないでよ舞ちゃん。」 「そうかな」 「千聖はあれで、結構臆病なとこあるから。今は何がなんだかわからなくて、怖がってるんだと思うよ。だから、舞ちゃんが思ってること全部伝えて、安心させてあげてほしいな。ほら、今だって千聖、すっごい舞ちゃんのこと気にしてる。」 えりかちゃんがこっそり指差す先にいた千聖は、なるほど確かに私たちの方をチラチラ観察している。目が合うと、すぐに背中を向けてしまったけれど。 「あれは、えりかちゃんの方を見てたんじゃないの・・・」 「違うよ。舞ちゃんだよ。ウチとは視線がぶつからなかった」 「そう・・?そう、かな」 「そうだよ」 えりかちゃんはそこで大きく体を伸ばすと、「さ、ウチらも最後の確認しよ?」と私を促してくれた。 「ちゃんと、後で千聖と2人っきりで喋れる場所確保してあげるから。」 「本当?」 えりかちゃんは不敵に笑うと、「千聖ー!読み合わせやろう!」と千聖を手招きで呼んだ。 「ん?何で笑ってるの?」 「んーん。別に。・・・えりかちゃん、ありがとうね。」 不思議な感覚だ。やっぱり敵わないな、って思ったのに、うれしいなんて。悔しいから、それは言ってあげないけど。 ついこないだは舞美ちゃんに励ましてもらって、今日はえりかちゃん。みんな心配してくれてるんだから、ほんとにちゃんとしないと。 「さ、集中集中!」 ほどなくみんなも集まってきて、自然に全体の最終確認になる。 大丈夫。今は、やるべきことに集中して。 「舞ちゃん、次舞ちゃんだよ!」 「あ、ごめんごめん!」 私はほっぺたを2回ペチペチ叩くと、みんなの読み合わせに追いつくべく台本に目を通した。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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「ン・・・ちしゃと・・・」 それから私は、そのエッチビデオのことを思い出しては、夜な夜な悶々とする日々を送る羽目になった。 あれは、ストーリーのことを考えなければ、結構実用的(・・・)だと思う。ファンの人にもメンバーにも散々言われてることだけど、私は多分S。こうやって好きな人をネチネチいたぶるみたいなのは、元々嫌いなわけがない。 「んん」 目を閉じて、千聖の顔を思い浮かべる。 “やめて、舞さん” 「んっ」 “お願い、許して” 「・・・ちしゃとぉ」 千聖は泣き虫だから、泣き顔のサンプルはいくらでも頭の中に残っている。・・・こんな形で再生することになるとは思わなかったけど。 布団の中でタオルケットを足の間に挟んで、もそもそと足を閉じたり開いたりしてみる。頭がボーッとしてきた。 痴漢はアカン!だけど心は自由でしょ?実際にしなければいいのではないでしょうか。でも好きなプレイが痴漢(しかもする方)って萩原舞完全終了のお知らせレベルだろ。・・・何を言ってるんだ私は。頭の中にいろんな主張が入り乱れて、支離滅裂。 「あ、あ、あ」 ――そろそろやめないとまずい。こうしてアソコを刺激するの自体は初めてじゃないけれど、いつも怖くて中途半端なとこでやめていた。やめなければ、取り返しのつかないことになりそうな気がしたから。 でも、体が言うことを聞いてくれない。千聖の髪に顔をうずめるように、タオルケットに鼻先を押し付けて声を殺す。 「うー・・・」 どうしよう。ヤバイ。 これ以上のことは、したことがない。なのに、勝手に指がジャージの中に進入していく。 “舞さん、だめ” 「――――っ」 ~♪♪♪ その時、枕元に置いていたケータイが、大音量でメールの着信を告げた。 それは、私が千聖専用にしている“僕らの輝き”。 一緒に歌っている曲でもいいんだけど、やっぱり千聖にはこの曲が一番似合っていると思う。 今の私の状況にもっとも似合わない、そのさわやかで元気な歌声が、頭を冷静にさせてくれた。 「ふぅ・・・」 ベッドに正座して、ゆっくりとケータイを開く。 最近、私たちは喧嘩をした。 私が千聖に、えりかちゃんとのお泊りを中止するよう迫ったのが原因。お嬢様の千聖は優しいけれど、何でも舞の言うことを聞いてくれるっていうのとは違う。“それは、嫌よ。”と思いがけず真面目な顔で言われて、私は「千聖は無神経だ」なんて当り散らしてしまった。 実は今、千聖の誕生日に向けて、みんなで大きなドッキリを企画している。大好きな千聖を喜ばせるための重要なプロジェクトなのに、つまらない意地を張っていてもしょうがない。わかっているけれど、今更どうやって謝ればいいんだろう。 しかも、喧嘩してる相手でエッチな妄想とか・・・・私はダメ人間だ。 千聖からのメールには、無神経なことをしたのならごめんなさい、と謝罪の言葉が書いてあった。 でも、千聖から謝ってくれたっていうのに、私の心は晴れない。だって、結局千聖はえりかちゃんのところに行ってしまうんだから。 千聖は結局、根本的なことはわかってくれていない。いくら好きだと伝えても、その“好き”の意味は伝わっていない。 「千聖がえりかちゃんを好きなように、舞も千聖が好きなの。」 こういう風に言えば確実に伝わるだろう。でも、私にだってプライドがある。こんなことを口にすれば、自分が惨めな気持ちになってしまうのは明らかだった。 千聖は舞のもの。 いつも疑うことなく、そう信じてきたけれど、ここにきてその自信は揺らいでいる。 千聖が今はえりかちゃんを好きでも、最後に舞を選んでくれるなら、本当は嫌だけどまあそれでかまわない。それぐらいの譲歩はできる。でも、今は千聖の気持ちが見えない。 えりかちゃんとあんなことしてるくせに、頼まれれば私にも同じことをする、その胸の内が。 だから私は、せっかくのメールだけど、返事は返さないことにした。 私はいつでも、千聖には素直でいたい。それがいいことでも悪いことでも。だから、こんな気持ちのまま、表面的にだけ仲直りするぐらいなら、このままでいい。 じゃあどうしたら私の気が済むのか、というのはまだわからないけど。 火照りかけていた体は、そんなことを考えていたらいつの間にか静まっていた。 でも下着の中は、ちょっと不快感。もう遅い時間だけど、せめてシャワーだけでも浴びようと、私は静かに部屋を出た。 前へ TOP 次へ コメントルーム 今日 - 昨日 - 合計 -
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前へ 食べ物はムダにしない主義だった私は、ここ最近それを覆さなければならない事態に陥っている。 頭打ってお嬢様キャラに変わった千聖を見てチーズケーキを床に落とし、 日傘を差してごきげんようと挨拶してきた千聖を見てマックシェイクを鼻から出し、 ついさっきはお昼にみんなでバカ話をしている時に、15秒遅れて「うふふ」と笑った千聖のせいでカップラーメンミルクシーフードをなっきーにぶっかけてしまった。 おかしいよ。特に愛理。みんな最初はとまどっていたものの、新しい千聖を受容しつつあるみたいだ。責任を感じている舞美や複雑な表情をしている舞ちゃんはまた違うみたいだけど・・・。 私は未だに、千聖がわるふざけをしているようにしか思えない。千聖はいたずらを思いつくのが天才的に上手だから、ただ単にこの「お嬢様ごっこ」のやめ時がわからなくなってるんじゃないかって考えていた。 それに、これがもし本当に千聖の演技ならば、早くやめてくれなければ困る。 千聖のお嬢様らしい振る舞いは、いちいち私のツボにはまるのだ。 おしとやかモードの千聖の背後に、大口開けて一緒にギャハギャハ騒いでいた時の千聖の顔が浮かんで、どうにも耐えられない。 私は、笑ってはいけないというプレッシャーにものすごく弱い。今日は千聖となっきーと私で、僕らの輝きの歌とダンスの再確認があるというのに、相当まずい状況に追い込まれてしまった。 「千聖。」 意を決して、愛理と楽しげに髪型をいじっている千聖を隅っこに呼び出し、問い詰める。 「あのね、もうそろそろやめにしない?」 「・・・あの、何のお話でしょうか。ごめんなさい私、心当たりがございません。」 千聖が追い詰められたチワワのような瞳でじっと見つめてくる。この時点でかなりやばかったけれど、どうにか視線を下げて言葉を続けた。 「だから、そろそろ元気な千聖に戻ってほしいの。お嬢様キャラも面白いんだけどさ。舞美もずっと落ち込んでるし、安心させてあげたいじゃない?」 「えりかちゃん、そんなこと言ってもダメだよ。本当に千聖は変わったの。演技じゃないんだよ。」 いつの間にか近づいてきていた愛理が、千聖を庇うように間に入ってきた。千聖も安心したように、愛理の二の腕をやんわりと握っている。 たしかに、これが演技なら千聖はものすごい女優になってしまう。 本物のお嬢様である愛理と比べても遜色ない。だけどやっぱり私の脳裏に焼きついているのは、牛乳を口に含んで栞菜と笑っちゃいけないゲームをしてるようないつもの千聖の姿なのだった(ちなみに千聖が負けて楽屋を牛乳まみれにした)。 「でもね愛理」「じゃあ梅田有原岡井、そろそろ準備して。」 ちょうど折り悪く、マネージャーが入ってきてしまった。 「じゃあね、頑張って、千聖。」 「はい、ありがとうございます。」 何言ってんの千聖。アホか。あああ笑いたい。爆笑してスッキリしたい。でも私の最後の良心が、それを押し留めていた。 「はい、じゃあまずダンスの確認から~」 「♪いーさーまっしいー」 CDの千聖の声を合図に、三人で立ち位置を確認しながらダンスをこなしていく。 千聖はいつもどおりに踊っている・・・つもりなのかもしれないけれど、何だかとてもふわふわゆるゆるした動きをしている。決して間違った振りをしてるわけじゃないので、先生も栞菜も困惑したように千聖を見ている。 「岡井、調子悪い?」 「いいえ、そんなことはありませんわ。それにこの曲は、私の大好きな曲ですの。」 「デスノ!?」 アーヤメテー!ヤバイー! 「梅田も大丈夫?」 「ハ、ハイワタシノコトハキニシナイデクダサイ」 もう千聖の顔をまともに見ることができない。私は必死で、最近あった悲しい出来事を頭の中に並べ立てて平静を保っていた。 「じゃあ先に、歌の確認やろうか。岡井、出だしいける?」 「はい。」 ちょ、ちょっと待って。歌は、歌はやめて!千聖! 「い~さ~ま~しい~~か~が~や~きの~」 小さな鈴が音を立てるような、生まれたての天使の産声のような愛らしい声で、両手を胸にそっと重ね、慈愛に満ちた表情で千聖が歌いだした。 「ぶはははははははははははh」 「えりかちゃん!?」 私はそのままたっぷり20分笑い続け、強制的に早退させられることになったのだった・・・・。 次へ TOP